Story
日本酒のある風景を、世界に、次世代に。
創業100年でも若いと言われる酒蔵は、その土地の地理的、歴史的に重要な産業として、神事や冠婚葬祭など様々な場面で役割を果たしてきました。日本酒は、地域の食文化や祭事、伝統工芸といった価値ある資産を有機的につなぐ存在です。2024年には「伝統的酒造り」がユネスコ無形文化遺産に登録されました。
一方で、清酒の出荷量は1973年度の177万kLをピークに、2023年度には39万kLと3割以下にまで縮小しています。清酒製造免許場もピーク時の4,073場から1,544場へと減り、長い目で見れば、ひと月に3蔵のペースで酒蔵が姿を消してきました。酒蔵が失われることは、その地域の文化と歴史が失われることでもあります。
それでも日本酒は、大都市で他の分野と出会うことで価値と価格を高められる、潜在的な機会に恵まれた商材です。都市でブランドの価値が上がり市場が広がれば、それは酒蔵のある地域への経済的な還元となり、観光や雇用を生み、地域を支える中心的なコミュニティになっていきます。
※ 出荷量は国税庁「酒のしおり」(令和7年7月)の清酒の課税移出数量。清酒製造免許場数は国税庁統計年報(1956年 4,073場、2021年度 1,544場)。月あたりの減少数はこの期間の平均値。
Principles
私たちは、新しい事業を始めるときも、続けるかどうかを決めるときも、次の三つの問いに立ち返ります。
01 Respect for the makers造り手にリスペクトのある、資産的な事業になっているか
日本酒の主役は、その土地で米と水に向き合う造り手たちです。私たちの仕事は、造り手の代わりに前に立つことではなく、造り手が酒造りに集中できる環境を、蔵の外側から整えることにあります。
だからこそ、その場かぎりの話題づくりで終わる事業はやりません。問うのは、取り組みが終わったあとに蔵に何が残るかです。時間経過とともに価値が上がっていくか、それを私たちは「資産的な活動」と呼んでいます。ブランドの価値、新しい売り先、飲み手や酒販店とのつながり、そして次の世代に渡せる経営の基盤。一度きりで消費されるのではなく、蔵と地域に積み上がっていく資産になっているかどうかを、事業の出発点にしています。
若手の夜明けは、2007年から蔵元たちが自ら開いてきた日本酒イベントを、camoが引き継いでリニューアルしたものです。私たちは、造り手が長い時間をかけて築いてきたものを受け継ぎ、新しい視点で広げる立場にいます。事業承継においても、米作り、酒造り、地域づくりは造り手に託し、ブランディングや営業、輸出、管理といった蔵の外側の仕事を私たちが担う。その役割分担に、造り手へのリスペクトを込めています。
02 Growing the market市場の規模を増やす、構造的なアプローチになっているか
縮小する市場のなかでは、ある蔵の勝ちが別の蔵の負けになりがちです。それでは業界全体が体力を削り合い、共倒れに向かってしまいます。私たちが目指すのは、限られたパイを奪い合うことではなく、パイそのものを大きくすることです。
そのために、ひとつのイベントや商品で終わらせず、市場の構造に働きかけることを重視しています。はじめての一杯に出会う場として、若手の夜明けや混祭のような大規模なイベントをつくる。出会った人が日常のなかで日本酒を手に取れるよう、生活の動線上に売り場をつくる。そして、免許制度や輸出、地理的表示といった業界の前提となる制度について、SAKE LEADERS SUMMIT のような公開の場で対話を重ね、政策提言へとつなげる。出会い、日常、制度。この三つの層を同時に動かしてはじめて、市場は構造から大きくなると考えています。
被災した能登の酒蔵を全国の蔵が共同醸造で支えた「能登の酒を止めるな!」も、同じ考えから生まれました。一社で完結させず、業界の力を持ち寄ることで、止まりかけた酒造りをつなぐ。構造的なアプローチとは、そうした互恵の仕組みを設計することでもあります。
03 Global and long-termグローバルな視点で、長期的な視座に基づいているか
国内市場の縮小を前提にするなら、日本酒の未来は世界との関係のなかにあります。私たちは、国内でブランドを育て、海外で成長をつくることを両輪にしています。sakejump は香港、北京、ベルリン、ロンドンで開催し、現地の食やカルチャーと日本酒を掛け合わせてきました。日本酒を単なる輸出品としてではなく、食文化や体験とともに届けることで、世界に新しい飲み手を増やしています。
そして、判断の物差しは四半期や数年ではなく、世代です。創業100年でも若いと言われる業界で、私たちが考えるべきは、数十年後、数百年後にもその土地で酒造りが続いているかどうかです。若手の造り手が世に出る場をつくること、次の世代が継ぎたいと思える経営の形をつくること。いま目の前の成果より、長く続く仕組みを選びます。