BREWERY ・ 蔵元
菊美人酒造
福岡県 みやま市
代表銘柄: 菊美人・有隣
概要
福岡県みやま市瀬高町、享保20年(1735年)創業の菊美人酒造です。地元出身の詩人・北原白秋は六代目に姉・加代が嫁いだ縁があり、「菊美人」「有隣」ともにラベルの題字は白秋直筆です。10代目蔵元・江﨑隆一郎は、経営コンサルティングやリクルートでの事業企画などを経て2024年に蔵へ戻り、現在は自ら醸造にも携わっています。…
代表銘柄
蔵元・杜氏OWNER / TOJI
OWNER / 蔵元
江﨑隆一郎
1994年生まれ、10代目蔵元・江﨑隆一郎です。慶應義塾大学経済学部在学中にフランスのHEC経営大学院へ留学。卒業後はデロイト トーマツ コンサルティングを経て、リクルートで自動車事業の事業計画の策定や業務システム設計に携わりました。幼い頃の蔵開きで、地元の人々が酒を酌み交わし笑い合う光景が原風景です。コロナ禍で飲食業界の落ち込みを目にし、都会でも人間関係が希薄になっていく感覚を覚える中で、2024年に家業へ戻りました。戻ってからは、ITのようにドライなものより、手触りのある酒造りの方に楽しさを感じるようになり、新ブランド「有隣」を立ち上げ、自ら酒造りにも携わっています。
TOJI / 杜氏
黒田信久
杜氏の黒田は、製薬会社で海外マーケティングを担当し、アメリカに駐在していました。50代に酒造りの世界に転身して菊美人酒造に入社。柳川杜氏のもとで学びながら経験を積み、インターナショナル・ワイン・チャレンジでゴールドメダルを受賞するなど、技術を磨いてきました。目指す味わいは、伝統的な旨み中心の酒質を、さらに澄んだ味わいへと磨き上げること。東京大学出身で理系のバックグラウンドを持ち、現在は「柳川ブルワリー」というビール会社を自ら立ち上げ、2店舗を経営しています。以前は通年雇用でしたが、現在は酒造りのシーズンに合わせて蔵に入る体制に変わっています。
蔵についてABOUT
福岡県みやま市瀬高町、享保20年(1735年)創業の菊美人酒造です。地元出身の詩人・北原白秋は六代目に姉・加代が嫁いだ縁があり、「菊美人」「有隣」ともにラベルの題字は白秋直筆です。10代目蔵元・江﨑隆一郎は、経営コンサルティングやリクルートでの事業企画などを経て2024年に蔵へ戻り、現在は自ら醸造にも携わっています。主力銘柄「菊美人」に加え、地域との繋がりをコンセプトにした新ブランド「有隣」を立ち上げ、伝統を受け継ぎながら次の時代の酒造りに挑戦しています。
地域・風土LOCALITY
当蔵のある瀬高町は、かつて40もの酒蔵が軒を連ねた酒どころでしたが、人口減少や産業の衰退により、今も残るのは当蔵のみとなりました。有明海に面した平野が広がる牧歌的な土地で、住民の多くが農業に従事し、みかんやセロリなど一次産業が盛んな地域です。柳川に代表されるこの地域の食文化は味付けが濃く、それに負けない旨みのある酒を地元向けに造ってきました。菊美人は今も地元を中心に流通しています。汗をかいた農作業の後に飲みごたえのある一杯を、というのもこの土地らしい酒の飲まれ方だと思います。
酒造りの方針PHILOSOPHY
当蔵が目指すのは、雑味のない「澄んだ旨み」です。瀬高は昼は温暖、夜は放射冷却と海風で乾燥する気候で、米をよく溶かす力価の高い麹づくりに最適な環境です。この麹を活かし、全量槽しぼりで丁寧に雑味を取り除くことで、旨みがありながら軽やかな酒質を実現しています。新ブランド「有隣」では、この技術を活かしてアルコール度数13%の低アル設計としながらも、食事に負けない確かな旨みを両立させ、日常の食卓に自然に馴染む酒を目指しています。
目指す姿・ビジョンVISION
当蔵のビジョンは「心を交わすよろこびを広げる」ことです。 私の原風景は幼い頃の蔵開きです。地元の方々が太陽の下でおつまみを広げ、新酒を飲み笑い合う姿がありました。しかし地元の過疎化で地域の繋がりが薄れる寂しさを肌で感じ、上京後も都会での孤立感に直面しました。田舎でも都会でも、人々の関係性は薄くなっています。 さらにコロナ禍がウェットで血の通った人間関係を奪い、ドライで“適切”な距離のある人々の付き合い方の変化を決定づけたように感じました。 いよいよ希薄化する社会の大きな流れに反抗したい。そう考えた時、積み上げてきたキャリアを離れて、家業へ戻ることとしました。 美味しいお酒は食事と会話を進め、杯を交わすうちに心の内まで解きほぐすものだと思います。日本酒の持つこの力を広げ、翌日には大切な人が一人増えているような、人間関係が息づく社会を目指しています。
酒造りを始めた理由STORY
もしゼロからビジネスを始めるなら、大消費地の近くが圧倒的に合理的だと思います。それでも私がこの瀬高で造る理由は極めて個人的な理由です。矢部川の治水を行ってきた先人や、田畑を耕した農家さん、この場を守り支えてくれた地元の人々との連帯を感じるからです。私にとって酒蔵は、自分が所有しているものではなく「先人から一時的に借りているもの」という感覚があります。地域の豊かな風土も、日本酒という文化も、先人から借りている大切な資産です。私の役割は、彼らが重視してきた精神を汲み取り、現代にアレンジして次の世代へパスしていくことだと考えています。 しかし今、私たちが借り受けているその土壌が危機に瀕しています。かつて40もの酒蔵が軒を連ねたこの瀬高町で、残るのは当蔵のみとなりました。これは瀬高に限らず全国であまねく起きている深刻な問題です。地域から酒蔵がなくなるということは、日本から一つの地域性や食文化の多様性が失われることを意味します。全国に1000以上の蔵が存在すること自体が食文化の豊かさを象徴しており、その廃業を「時代の移り変わり」や「競合の減少」といったドライな話として片付けるのではなく、国全体の豊かさが目減りしている事態だと深刻に捉えています。 私たちのような小規模な蔵が残るための道は、匿名性の高い大手のような商品開発を追うことではありません。自分たちに与えられた水や気候、米といった条件を深く理解し、その中にある強みを最大限に活かしきること。つまり「地域性の表明」こそが、私たちがこの地で生き残る唯一の道だと考えています。 その実践が、新ブランド「有隣」です。福岡県産の山田錦を使用し、瀬高の気候を生かして米を溶かす麹を作り、低アルコールで綺麗な後口に仕上げています。今後はさらに地元の風土を色濃く反映するために、瀬高産の低農薬の飯米「つやおとめ」の酒も製造予定です。借り受けた資産を現代の生活に無理なく馴染むよう再構築し、これからもこの瀬高で地域との連帯を胸に醸し続けます。
代表銘柄BRANDS
菊美人・有隣

